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おうむのイズム

鸚鵡のイズム

寺田 寅彦

「改造」1920(大正9)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,463 字 · 5 页

青空文庫

この書物の第十五章は盲と芸術との交渉を述べたものであるが、その中に、盲で同時に聾のヘレン・ケラーという有名な女の自叙伝中に現れた視覚的美の記述がどういう意味のものかという事を論じた一節がある。その珍しい自叙伝中から二、三小節を引用してあるのを見ると、例えば雪の降る光景などがあたかも見るように空間的に描かれている。あるいは秋の自然界の美しい色彩が盲人が書いたとは思われないように実感的に述べてある。しかし著者はこのような光景は固より盲者にとっては何らの体験にも相応しないバーバリズムに過ぎないという事を論じ、それから推論して、ケラーが彫刻を撫で廻せばその作者の情緒がよく分るといった言葉の真実性を疑っている。

私はこれを読んだ時に何だか物足りないような気がした。ケラーの主張が本当であり得るような気がすると同時に、そうであらせたいという気もした。しかし自分は盲でない。ヴィエイという優れた盲の学者の説に反対すべき何らの材料も持ち合せない。しかし少なくもこれだけの事は云われると思う。すなわち芸術に対する感受性は必ずしも各人に普遍的なものではないから、ヴィエイが感得しないある物をケラーが感じるという可能性は残っている。