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おうむぐらかえくびでんせつ
鸚鵡蔵代首伝説
国枝 史郎
「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页
音はといえばそればかりであった。
「お前もほんとうに可哀そうだったねえ」としみじみとした声でお篠は云った。
「お父様やお母様の書信で聞いたのだが、いわばお前は、不具者のようにされて育てられて来たのだってねえ。……でもここへ来たからには大丈夫だよ。もうそのような固苦しいみなりなどしていなくてもよいのだよ」
「はいお姉様、ありがとう存じます」
「おや」と不意にお篠は左右を見廻した。
「首がない! 妾の首が!」
「お姉様」と菊弥は驚き、
「いいえ首は……お姉様の首は……ちゃんとお姉様の肩の上に……」
「首がない! 妾の首がない! 男ばかりの首の中に、たった一つだけある女の代首! それが妾に似ているところから、旦那様が、お篠、これはお前の首じゃと云われ、日頃いっそう大切にお扱い下された首! その首がないのじゃ!」
なお左右を見廻したが、
「お蔵へ残して来た覚えはなし……何としたことだろう?」
じっと眼を据えた。
「奥様」とこの時、菊弥の背後から、濁みた、底力のある声が聞こえてきた。
菊弥は振り返って見た。彼がこの部屋へ入って来た時、引き開け、そのまま閉じるのを忘れていた襖の間に、身丈の高い、肩巾の広い、五十近い男が、太い眉、厚い唇の、精力的の顔を、お篠の方へ向けて立っていた。