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むぎばたけ

麦畑

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,388 字 · 3 页

青空文庫

いつものお婆さんなら、少し鼻にかかった作り声で、滑るように

「お暑いこってござりやすない

と返事をする筈なのである。

けれども、今日は如何うかして、小学校の子供のように、お婆さんは只コックリと頭を下げた限りで、ぼんやりと天日に頭を曝した儘、薄紫の愛らしい馬鈴薯の花を眺めて居る。

「どうなさいました。家へ入って少し休みましょう

私はお婆さんを縁側に腰掛けさせて、お茶を入れた。喉が乾いて居ると見えて、お婆さんは殆ど機械的に三杯お茶を飲み干すと、始めて人心地が付いたように、眼を大きくして、四辺を見廻した。そして、手拭で頭の汗を掻くと、其を顎の辺に止めたまま、いきなり

「今日は、はあお仙さと伺いを立てにいぎやしてなあ

と話し始めた。何処でも田舎はそうなのか、村では占とか、御祈祷、神様に伺いを立てる等と云う事が非常に流行する。其も、一年の中で春から夏に懸けて、人々は、大抵の女は、何かと云うとそう云う種類の話を持ち出すのである。

「はあ、何ちゅう当ったこったか、

お婆さんは、太い溜息を吐いて、又手拭で顔を拭いた。

「私が、今年は足ろくさんに当って居る事から、とっさまの事から、はあ、すっかり当てやしてない、……お前さんは、まだまだ心が堅まんねえ、量見が定まんねえから、駄目だって云われやしたの