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たそがれのこくはく
黄昏の告白
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,453 字 · 41 页
しかし、結婚して自分の妻としての蓉子をはっきり眺めた時、僕はいかにして完全に永久に愛しあって行かれるかと思い始めたのだ。
僕は自分の手に入れた妻が、果して永く僕の手の中にいるかどうかを疑いはじめたのだ。
僕は多くの夫を知っている。彼等が幸福そうに妻とならんで歩いているのをしばしば見かける。僕は彼等のように暢気に生れて来なかったことを憾みに思っている。彼等は皆自分の妻を独占していることによって、その身体を独占していることによって、慰められている。妻の気持には少しも考慮を払うことなしに!
彼等の妻のある者は常に不平を抱いているだろう。ある者は諦めているだろう。幾人がほんとうに夫を愛し切っているだろう。僕の場合にはそれは考えてもたまらないことなのだ。僕は妻の身体を独占していると同時に、妻から愛し切っていられなければ一日でも安心して生きてはいられないのだ。こういう僕にとって、結婚ということは何と呪わしいことであったろう。
結婚の当初、蓉子は僕を尊敬しかつ愛した。それはたしかだった。しかし愛に眩まされた僕は芸術の精進を怠った。僕はそれは感じていた。けれど僕は自分の仕事の全部を失っても蓉子に永久に愛され切っていたら、それでいいとすら考えた。