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くろねことみ
黒猫十三
大倉 燁子
「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,366 字 · 29 页
その時まで一言も云わず、膝の上の黒猫を撫でていた十三は、始めて口をきいた。
「失礼だわ。私達の方こそ見逃して頂かなけりゃならないのよ。あんな泥棒みたいな真似をして、お部屋中を引掻き廻してさ。本庄さん、貴方、怒っていらっしゃるでしょう?」
と云った。いい声だなと思って、その柔かい感じに聞惚れていたので、最後の言葉しか耳に入らなかった。だから、
「いいえ」と云うより仕方がなかった。
「しかし、そりゃ職務上、已を得ない事なんだから」と宮岡警部は弁解するように云って、急に居住いを正し、
「冗談はとにかく、――これは真面目な大事な話だから、よく聞いておいて下さい。実は君を喚んだのはこういう理由なんだ。――辰馬久は身辺に危険の迫ったのを早くも感付いて、姿を暗ましそうな形勢が見えるんです。猶予してはいられないんだ。そこで昨夜は失敗したが、今夜こそは一つ上手くやって、――実はね君」
と急に声を低めて、
「少し危険だが、彼のアパートを襲おうと計画してるんだ。証拠書類を押収しようという訳で、――就いては君に案内役を引受けてもらいたいんだよ。真向から部下を引連れて乗込むのは容易い事だが、僕はそれを好まないんだ。