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ねずみざか
鼠坂
「中央公論」1912(明治45)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,781 字 · 16 页
どうも鼠やなんぞではないらしい。狗でもないらしい。小川君は好奇心が起って溜まらなくなった。その家は表からは開けひろげたようになって見えている。の縁にしてある材木はどこかへ無くなって、築き上げた土が暴露している。その奥は土地で磚と云っている煉瓦のようなものが一ぱい積み上げてある。どうしても奥の壁に沿うて積み上げてあるとしか思われない。小川君は物音の性質を聞き定めようとすると同時に、その場所を聞き定めようとして努力したそうだ。自分の跨がっている坑の直前は背丈位の石垣になっていて、隣の家の横側がその石垣と密接している。物音はその一番奥の所でしている。表から磚の積んだのが見えている辺である。これだけの事を考えて、小川君はとうとう探検に出掛ける決心をしたそうだ。無論便所に行くにだって、毛皮の大外套を着たままで行く。まくった尻を卸してしまえば、寒くはない。丁度便所の坑の傍に、実をむしり残した向日葵の茎を二三本縛り寄せたのを、一本の棒に結び附けてある。その棒が石垣に倒れ掛かっている。それに手を掛けて、小川君は重い外套を着たままで、造做もなく石垣の上に乗って、向側を見卸したそうだ。