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“しきけんはつどう”をかかざるのき

“指揮権発動”を書かざるの記

犬養 健

「文藝春秋」文藝春秋新社、1960(昭和35)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,319 字 · 19 页

青空文庫

しつこく喰い下って来ればいっそう詳しく書く。向うが皮を切ればこっちは骨を切る。何も私ひとりが無抵抗主義で縮こまっていることはない。――実は私の礼儀としては、この原稿執筆についていちおう断りを言うべき筋も二、三はあるし、ことに大野伴睦老や検察庁にはその義理を感じるが、この場合はかえって先方に迷惑のかかるのを恐れて、私は独断で書く。そして一切の責任は自分で背負う。こう決心した。――もっとも、刑事事件の総括責任者である元の国務大臣が、その事件の内容を十年も経たぬうちに公表するというのは穏やかでない。まして上述のとおり、当時の検察関係者はまだ現役として勤務中である。ただし、先方がこれ以上脅迫して来れば話は別である。こちらとしても防衛上いっさいを発表して世の中の批判を求めるより他はない。

こんな経緯で、私はとうとうそもそもの振り出しに戻って、このU君に、「指揮権発動を書かざるの記」という原稿を贈呈しようと思いついた。U君はその原稿のゲラ刷をちょうどいまパリにいるA君のもとへさっそく航空便で送り届けるだろう。そしてA君はそれを開封してみて、思いがけないU君の腕前にさぞかし眼を丸くするに違いない。