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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

とみょうに気のぬけた返事が聞こえた。「豆腐屋の……青木?」

「はい」

「先生は風邪気でおやすみですから……どうですかうかがってみましょう」

「どうぞお願いします、急病ですから」

千三は暗い門前でしずかに耳をそばだてた、奥で碁石をくずす音がちゃらちゃらと聞こえる。

「なんだ、碁を打ってるのにおやすみだなんて」

こう千三は思った。とふたたび小さな窓が開いた。

「ただいま伺います」

「ありがとうございます」と千三は思わず大きな声でいった。

「どうぞ、よろしく、ありがとうございます」

千三は一足先に家へ帰った、母はまだ正体がない。

「冷えたんだから足をあたためるがいい」

こう伯父がいった。伯母はただうろうろして仏壇に灯をともしたりしている、千三はすぐ火をおこしかけた。そこへ車の音がした。

「どうもごくろうさまで……どうぞ」

くぐりの戸をはいってきたのは手塚医師でなくて代診の森という男である。この森というのは、ずいぶん古くから手塚の薬局にいるが、代診として患者を往診した事はきわめてまれである、千三はいつも森が白い薬局服を着て往来でキャッチボールをやってるのを見ているのではなはだおぼつかなく思った。