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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

それがいま傲然と呼び捨てにされたので幸吉たるもの胸中いささかおだやかでない、かれはだまって答えなかった。

「おい幸吉! なにをしとるかッ、ああん」

「早くゆきましょうよ森さん」と幸吉は業腹まぎれにいった。

「こらッ外套と帽子をおくれ、ああん」

森は外へ出た、車の走る音が聞こえた、寒さは寒し不平は不平なり、おそらく幸吉、車もくつがえれとばかり走ったことであろう。

車におくれじと千三も走った、かれが医者の玄関に着いたとき、奥ではやはり囲碁の音が聞こえていた。

母の病状はそれ以上に進まなかった。が、さりとて床をでることはできなかった。

「明日になったら起きられるだろう」

こう母はいった、だが翌日も起きられなかった。病弱な彼女が寒さをおかして毎日毎夜内職を働いたその疲れがつもりつもって脳におよんだのである。千三は豆腐をかついで町まわりの帰りしなに手塚の家へよって薬をもらうのであった、最初薬は二日分ずつであったが、母のお美代はそれをこばんだ。

「じきになおるから、一日分ずつでいい、二日分もらっても無駄になるから」

これはいかにも道理ある言葉であった、どういうわけか医者は二日分ずつの薬をくれる、それも一つはかならず胃の薬である、金持ちの家は薬代にも困らぬが、まずしき家では一日分の薬価は一日分の米代に相当する。