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ああぎょくはいにはなうけて

ああ玉杯に花うけて

佐藤 紅緑

「少年倶楽部」1927(昭和2)年5月号~1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,617 字 · 250 页

青空文庫

「お父さんは悪い人だ」

かれは大声をだしてなきたくなった。かれにはなにものもなくなった。

「悪い人だ!」

いままで父に教えられたこと、しかられたこと、それらはみんなうそのように思えた。

焼けてちぢれたひげがむにゃむにゃと動いて、口がぽっかりあいて乱ぐいの歯があらわれたかと思うと猛太は目をぱっちりと開いた。父と子の視線が合った。

「おう、目がさめたのか、どうだ、痛むか」

父は起きなおっていった。

「なんでもありません」と巌は冷ややかにいった、父は寝台を降りようとして首につった繃帯を気にしながら巌の寝台へ寄りそうた、そうして心配そうな目を巌の顔に近づけた。

「元気をだせよ、いいか、どこも痛みはしないか、苦しかったら苦しいといえよ」

巌はだまって顔をそむけた、苦しさは首をのこぎりでひかれるより苦しい、しかしそれは火傷の痛みではない、父をさげすむ心の深傷である。この世の中に神であり仏であり正義の英雄であると信じていたものが一夜のうちに悪魔波旬となった絶望の苦しみである。

猛太父子の見舞いにとて来客が殺到した、町の人々はいろいろな物品を贈った、猛太は左の腕と左の脚を焼いたので外出はできなかった、かれは寝台の上に座って来客に接した。