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あとがき(『ふたつのにわ』)

あとがき(『二つの庭』)

宮本 百合子

「二つの庭」新潮文庫、新潮社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,990 字 · 5 页

青空文庫

一人の人間が歴史に目ざめるということ、歴史の現実そのものが一人の人間を社会主義への展望に成長させてゆく過程はヒューマニティそのものの問題である。思想検事が「ここにおいて被告はマルクス主義思想を抱懐するにいたり」と法廷でよみあげる告発の文書の文句とは、まるでちがった本質と道ゆきとをもつことである。

「伸子」の続篇を書きたいと思いはじめたのは、この時分からのことである。しかし、この願いは一九四五年の八月十五日が来るまで実現しなかった。「伸子」以後の伸子がめぐり合った現実は、一家庭内の紛糾だけではなかったし、恋愛と結婚に主題をおいた事件の連続だけでもなかった。一九二七・八年からあとの日本の社会は、戦争強行と人権剥奪へ向って人民生活が坂おとしにあった時期であり、そこに生じた激しい摩擦、抵抗、敗北と勝利の錯綜こそ、「伸子」続篇の主題であった。そういう主題の本質そのものが、当時の社会状態では表現不可能であった。

「おもかげ」「ひろば」そのほか一・二篇の未完の小説は、作者が、伸子の続篇をかきたがって試みた、せつなくて短い羽ばたきである。

「二つの庭」で伸子は二十七歳になっている。