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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいきゅうかん)

あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第九巻」安芸書房、1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,598 字 · 10 页

青空文庫

一冊であり、それは全部の十分の一にも足りなかった。一九三二年の三月後から一九四五年八月までつづいた日本のファシズム権力は治安維持法と情報局の取しまりとで社会主義という文字そのものが印刷物にあることを禁じ、当然ソヴェト事情の公正な紹介も許さなかった。その期間ソヴェトに関して出版されたものは、軍、外務省の情報機関を通じたものであり、構想敵の実体調査であった。反人民的な本質に立つものしか許されなかった。

この十数年間は、作者の生活波瀾もはげしく、度々の検挙や投獄で、三二年ごろ書いたソヴェト報告は四散したままにすてておかれた。このたび、幾人かの友人たちの熱心な協力によって、その大部分が集められた。そして、選集第八巻、九巻をみたすこととなった。

こんにち、これらの文章をよむと作者自身を感動させる素直さと、正直さが全篇にあふれている。三十一、二歳だった一人の女として、ある程度文学の仕事に経験を重ねている作家として、中條百合子は、全身全心をうちかけて、「新しい世界」のカーテンをかかげ、その景観を日本のすべての人にわかとうとしている。自分の感動をかくさず、人々も、まともな心さえもつならば、美しい響きは美しいと聴くであろうという信頼において。