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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいにかん)
あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第二巻」安芸書房、1948(昭和23)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,610 字 · 8 页
福井県のひどくむし暑い田圃の中の農家の屋根うらの二階で、板の間にしかれた三畳のたたみの上で、毎日少しずつ書いて行った。自分の結婚生活の破綻は益々切迫しているとき、作者が、身辺に取材しないで、現実から翔びはなれて、「古き小画」のような題材をとらえて書いたということには、その当時では自覚されていなかった二つの意味が見出される。一つは、作者の日々の感情に犇めいているさまざまの苦しさ、矛盾葛藤を、二十五歳の作者の力量では、人間的にも把掴しきれず、まして文学の作品としてそれを客観的に再現することは不可能であった。その結果、古代ペルシアの物語に飛躍して取材された。作者の自覚なしに行われたこういう題材の飛躍的な選択は、一方から見れば現実からの逃避であった。けれども、また他の一方から観察すると、そこに微妙な心理の契機がひそんでもいる。自分をどう解放していいのか分らない女の思い。身もだえする若い妻としての思いに屈して何年もすごして来ていた作者が、その心情の昏迷に飽き疲れて自分という始末のつかないものの身辺から遠くはなれてそれを眺めることができる題材。観察し、描くことのできる何かをつかまえたい本能的な欲望が作用していた。