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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいにかん)

あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)

宮本 百合子

「宮本百合子選集 第二巻」安芸書房、1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,610 字 · 8 页

青空文庫

は一九一九年のはじめにニューヨークで書かれた。二十一歳になった作者が、めずらしく病的で陰惨な一人の男である主人公の一生を追究している。描写のほとんどない、ひた押しの書きぶりにも特徴がある。

ニューヨークのようなところに生活しているとき、若い作者がなぜその人として珍しいほど暗い題材をそれ自身が一つの異常である書きぶりで書いたのだったろうか。時を経た今考えてみると、この「渋谷家の始祖」のモティーヴはきわめて心理的だったと思われる。一九一八年の十二月ごろから、作者はニューヨークで、のちに結婚したペルシア語の専門家であるひとと知り合った。結婚にまで進んだ恋愛の初期に、作者が「渋谷家の始祖」のような題材に着目した点が注意をひく。その当時、作者が全然自覚していなかった心理的なモメント――新しく自分におこって来ている恋愛のあいてとその人との間にある思いが、人間の明るさより暗さを、素直さよりもより深く鬱屈を暗示したということは微妙なことだったと考えられる。「渋谷家の始祖」の主人公が病的であった原因は、富裕な階級の未亡人に甘やかされて社会性を鍛えられずに青年となった人間の醜さと悲劇である。