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あとがき(『みやもとゆりこせんしゅう』だいろっかん)
あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)
宮本 百合子
「宮本百合子選集 第六巻」安芸書房、1948(昭和23)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,063 字 · 9 页
「伸子」が完成して、出版準備も終った一九二七年の日本で、「伸子」は一つの文学的現象にしかすぎず、或る程度まで評価された一つの文学的業績にとどまった。そして、そのように評価したのは、所謂旧文壇であり文学愛好者のせまい輪であったことは興味がある。中産階級やインテリゲンツィアの革命性とその価値について十分把握していなかった当時のプロレタリア文学の側は、「伸子」を全く無視していたように思われる。ひとくちに云えば、作者は無産階級の作家ではなかったから。まじめな「伸子」の批判も見なかったし、作者のもっていた積極性の本質やその限界についての分析も与えられなかった。そのころのプロレタリア文学運動のおかれていた未熟でやや機械的だった文学の階級的基盤の解釈なりに、プロレタリア文学もやっぱり「伸子」を文学のらち内での現象としてしか見ていなかったことがわかる。
最近二三年このかた、「伸子」ははじめて読者の人生そのものによって、生活そのものによって読まれはじめた。この重大な変化に気づいたとき、作者たるわたしは感動を制することがむずかしかった。「伸子」は、とうとう作者がそれを書かずにいられなかった心持そのものにおいて同感され読まれ批評されるときが来たのだ。