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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页
「あんたって、部屋にいたためしがないんですもの。あたし、すっかり同情しちゃったわ……二十歳ぐらいかな。生れてから、いちどもパーマなんかかけたことのないような、クセのない髪をサラッとおさげにして、ひと掛け三千円もするような『ランヴァン』のレースのリボンを、頭のうえでチョンと結んでいるというスタイル……」
「あなた、しゃべりだすと、とまらないみたい」
「あたし、どうせ、おしゃべりよ……あれは、日本画か、お茶のお稽古をしているひとなのね……パアッとした色目の友禅の着物に、木型にはめたような白足袋をキチンとはいて、ごめんください、なんて言いながら、すらすらはいってくるの……昭和のはじめごろのような、時代な着付なんだけど、それが、なんともいえないほどシックなの……あまり、すばらしいんで、キャッと言っちゃったわ」
「そんなお嬢さま、おちかづきがなかったわ。なんとおっしゃる方?」
「久慈って言っていたわ」
久慈暁子というのは、鎌倉の警察へおしかけて行って、偽証までして愛一郎を庇ったという、あの突飛な娘だった。愛一郎や中村から聞いて、ようすは知っているが、どう考えても、縁のなさそうなひとが、なんのつもりで、そうもしげしげと訪ねて来るのか、サト子には理解できなかった。