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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页
「このごろ、よくお逢いしますが、知り合いというほどの知り合いでもありません。どうして、あたしの子供のときのことなんか、知っているのかしら」
「中村君は、いぜん飯島に住んでいましたから、ごぞんじのはずなんですが」
そう言われれば、遠いむかしの記憶の中に、中村に似た、いかつい顔があったような気がするが、はっきりと思いだせない。
「そうだったかしら。おぼえていません」
「海軍にいるころは、軍艦にばかり乗っていて、一年にいくどというほどしか、帰って来なかったから、おぼえていらっしゃらないかもしれないが、中村君のほうでは、忘れられないわけがあるんです。そもそも、飯島に新婚の家庭を持つようになったのも、水上さんの周旋だったし、海軍が嫌になって退役してから、神奈川県の警察に勤めるまで、水上さんの助力で、長い失意の生活をささえていたような事情もあって、中村にとって水上さんは、古い言葉ですが、再生の恩人ともいえるようなひとだったんです」
「でも、中村さん、一言も、そんなこと、お話にならなかったわ」
「あのとおり、人づきは悪いですが、あれで心のキメのこまかい、親切な男です。あなたのことを親身に心配していました。