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あなたもわたしも
あなたも私も
久生 十蘭
「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页
「ありがたいんですけど、植木たちに別れるのがつらいから、やはり荻窪にいますわ」
と言いつくろっておいた。
秋川は、そんなことなら……と事もなげに笑っていたが、サト子を北鎌倉の家にひきつけるために、植木溜の植木をそっくりそこの家の庭へ移すことを、そのときもう考えていたのかも知れない……
愛一郎と暁子が鎌倉の駅口に迎えにきていた。サト子に合図をすると、愛一郎は小学生のように暁子と手をひきあいながら、車のほうへ駆けて行った。
愛一郎が操縦席におさまると、暁子はすっきりした地色の訪問着の袖を庇いながら、
「あたくし、助手」
と愛一郎のとなりのシートに辷りこんだ。
「ゆうべおそく、秋川さんから電報を頂いたんですけど」
愛一郎は、スターターを押しながら、
「きょうは公式の会合があるはずなんです」
と、こたえた。思いついて、サト子がたずねた。
「というと、おふたりの婚約のお披露?」
「いいえ……それは、またいずれ……」
暁子があどけないくらいな口調で言った。
「きょうは愛一郎さんのお誕生日なの……そして、あたくしの誕生日」
去年の冬、袱紗包みを持ってたずねてきたときは、枯葉のように萎れていたが、きょうは咲きほころびた春の花のように生々としていた。