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あなたもわたしも

あなたも私も

久生 十蘭

「毎日新聞」1954(昭和29)年10月29日~1955(昭和30)年3月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,405 字 · 263 页

青空文庫

秋だ。けさ着換えたウールの地が、しみじみするほど、よく膚につく。

サト子は、穿きかえの靴や、アクセサリーや、そういう小道具を入れた、モデルの仲間が化粧箱といっている大きな太鼓型のケースをさげ、参道の左手の低い石門を入ると、池のみぎわから建物の横手をまわって、入場券の売場へ行った。

近代美術館では、この月のはじめから古陶磁の展覧会をやっているが、それを見るためではない。化粧箱を預けたり、トイレットを借りたり、ティ・ルームでお茶を飲んだり……あっさりいえば、職場の休憩室といったぐあいに利用している。そういう用を便じるために、入場券だけは買う。

金網の間を通って、下足の預り所へ行く。預り所のおばさんが、化粧箱を受取りながら、お愛想をいってくれる。

「髪も、服も、変って、どこかの若奥さまみたい……さすがに、器用なもんだわ」

「これが、年相応というところなの……お世話になりましたわね。ここのアルバイトも、きょうでおしまい。そろそろ、東京の仕事がはじまりますから……」

最初の日、サト子は、参道をブラブラしながら、外国人の観光客のカメラの使いかたを観察し、風景だけの風景よりも、日本人のはいった風景のほうを好むということを発見した。