轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あめんちあ
あめんちあ
富ノ沢 麟太郎
「改造」1911(明治44)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,594 字 · 83 页
彼の母親には彼を見張るために密偵を差向けるだけの余裕はない。
それなら? 彼は考えなければならない。
それは慥かに何ものかが、その間に介在していなければならない。
「伝心?」
「分身?」
「陰謀者?」
彼はまたしてもこんな考えのなかへ惹き入れられようとしていた。
その時、親友青沼白心と約束しておいた荷車が今いる宿へ着いたので、彼は自分を不可解な彼自身から呼び醒したように感じた。
そうして彼は秩序もなく荷物をかたづけて送り出した。
彼は雪のなかを蹌踉めきながら進み行く人のように、その荷車の後ろへ従いて行った。
*
彼自身は、人が言うように、決して堕落しようとは夢想だにしていなかった。
彼自身には、他人から軽蔑されるだけの行為はあったにしても、それは自己の我執を刺戟したまでのことである。
その行為の動機は、それこそすべて、他人の冷淡と卑劣と羨望と臆病とから生れる彼自身の恐るべき不安を愛することに根ざしてはいなかったであろうか、と、こう考え至るなら、彼にとっては、最早こんな事柄はどうでもいいことになる。
いまの彼にとっては、何でもないことである。
いまや彼は自分の敵に向って宣戦を布告するのであるから。