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あるニュー・フェイスへのてがみ
あるニュウ・フェイスへの手紙
岸田 国士
「演劇 第一巻第一号~第七号」1951(昭和26)年6月1日~12月1日、「演劇 第二巻第一号~第二号」1952(昭和27)年1月1日~2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,146 字 · 96 页
微細な観察が意外に大きな、動かしがたい特徴をとらえたことになるのをみて、一同は感嘆します。
ある演し物の稽古中です。仮り縫いを合せに来た仕立屋の役をふられた俳優が、巻尺の持ち方を知らなかったので、コポオは、見物席にいる俳優に、どうすればいいかと訊ねました。誰も満足に答えられずにいると、ジューヴェが、のこのこ舞台に上って行って、その俳優から巻尺を取りあげ、それをひょいと左肩にかけ、手を客の上着の肩のへんに突っこんで、左手でその裾を二三度鷹揚に引っ張った手つきの鮮やかさに、コポオも思わず吹き出してしまいました。
ただそれだけなら、他愛のない物真似にすぎませんが、ジューヴェの観察は、すぐに、自分が仕立屋だったらという風に、彼のタイプに寸法を合せた表現になるところが、なんとも言えぬ迫真性の生れる原因です。
どんなことがあっても彼は決して、類型を追いません。すべて、淡々としたなかに強烈な個性のあふれた一個の典型を描くことに成功しているのです。これが彼の芸質に近代的ノンシャランスの渋味と「にくらしい」までの気品とを添えることになるのです。
こんなことを書いていると際限がありませんが、既に亡きジューヴェを師と仰いでいる君の参考にもなればと思い、ふるい記憶を辿り辿り、とりとめもない感想を綴ってみました。