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あるこうぎしょ
ある抗議書
菊池 寛
「中央公論」中央公論社、1919(大正8)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,272 字 · 34 页
「此方は、角野さんの御親類でしょう。今角野さんの御宅が大変なのです。すぐ誰か来て下さるように……」と、云いながら、その男は、スタスタと駈け出そうとしましたので、私は追い縋るように、
「大変って、一体どうしたのです。どうしたのです」と、訊き返しました。後から考えますと、小使は姉夫婦が殺されたことは、知って居たのでしょうが、そうした怖ろしい惨事を、自分の口で知らせると云う嫌な仕事を避けたのでしょう。
「なんでも強盗が、はいったと云う事ですが、私は精しいことは知りません。何しろ、早う来て下さるようにとの事でした」と、云いながらドンドン帰って行きました。私は強盗と云う言葉を聴くとある怖ろしい予感に胸を閉ざされてしまって両足にかすかな慄えをさえ感じました。玄関へ取って返して来ますと、そこに父と母とが寝衣のままに立って居ました。母はもうスッカリ慄えを帯びた声で、
「どうしたのどうしたの」と、オズオズ訊きました。私が、
「姉さんの家へ強盗が、はいったんです」と、云いますと、母は、
「ひえ!」と、云ったまま父の肩にすがり付きながら、ガタガタ慄え出しました。気丈な父は、遉に色も更えずに、