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あるこうぎしょ

ある抗議書

菊池 寛

「中央公論」中央公論社、1919(大正8)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,272 字 · 34 页

青空文庫

私は、怖る怖る次の四畳半の襖を開けました。その四畳半にも何の異状もありませんでした。が、ふと四畳半と六畳との間の襖が二尺ばかり、開かれて居る間から六畳の間を見ました時、私は思わず「姉さん!」と、悲鳴に似た声を出しました。それは、確かに姉の足です。敷かれてある布団から斜に畳の上に投げ出されてある色白な二つの足は、姉の両足に相違ありませんでした。その二つの足を見ると、私は今迄の恐怖を丸切り忘れて一気に六畳の間に駈け込みました。そこで私が如何なる光景を目撃しましたろうか。その当時から、足掛五年になる只今も私はその光景を思い出すごとに、胸が裂け四肢の戦くような、恐ろしさと忿とを感ぜずには居られないのです。

司法大臣閣下。――閣下は、閣下の肉親の方が兇悪なる人間に惨殺された現場を御覧になったことがありますか。否少くとも、閣下の肉親の方が他人に依って惨殺されたと云う御経験をお持でしょうか。もしこうした経験がお有りにならなければ、私がその光景に依って感じた怖ろしさと忿と悲しみとの混じった名状しがたい心持は、とても御想像も及ばないだろうと思います。

私の姉は、私のただ一人のとし子は、ついその前日私を微笑を以て送迎した姉は、髪を振り乱したまま布団の上に投げ出されたように倒れて居ましたが、その首に捲かれて居る細い紐を見まし