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あるおとこのだらく

ある男の堕落

伊藤 野枝

「女性改造 第二巻第十一号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,585 字 · 27 页

青空文庫

という実に単純な一つの事実です。

それは、私共が、滝野川の家に越してから間もなくでした。Oは、何かの用事でYの家に行く事になりました。Oは以前一度その家へ行って見て、ぜひ私をその家に連れてゆこうといい出しました。当時Yは、浅草の田中町の小さな裏長屋に、始終彼の啓発者であったMさんといっしょに住んでいました。私は半ば好奇心からある晩子供をおぶって出かけてゆきました。

それは、四畳半一間の家でした。しかもその四畳半の半だけは板の間で、そこがまず台所という形で、つきあたりの押入れは半分が押入れで、あとの半分が便所という住居でした。露路をはいると、何ともいいようのない一種の臭気に閉口しながら、Yの家にはいった私は、そこでもその臭気に悩まされ続けました。

話がはずんで、少し遅くなって帰ろうとすると、Yは泊ってゆけとしきりにとめるのです。私はその無茶な申出に驚いていました。さすがにMさんは、

「こんな処に泊めちゃ迷惑じゃないか。」

とYをとめていましたけれど、Yはそんなことにはいっこうおかまいなしです。「くっつき合って寝れば八人は寝られる」と彼はムキになって主張するのです。