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あるおとこのだらく

ある男の堕落

伊藤 野枝

「女性改造 第二巻第十一号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,585 字 · 27 页

青空文庫

「後学のためだ、一つ我慢して泊って見るか。」

とOは私を振りむいていいました。

「とんだ後学だなあ。」

Mさんも私の顔を見ながら気の毒そうに苦笑しました。

「この辺の様子が、夜でちっとも分らなかったろう? 明日の朝もっとよく見て行くことにして泊ろうか。大分おそくもあるようだ。」

「ええ。」

私も仕方なしに、泊ることにしました。

その夜私は一晩中、うすい蒲団の中でゴロ寝の窮屈さと、子供を寒くないように窮屈でないように眠らすために、寝返りをすることもできず、体が半分痺れたような痛さを我慢して、どうして一人ででも帰らなかったろう、と後悔していました。

Mさんは早く仕事に出て行ってしまいました。Oも眠れなかったと見えて子供が少し動くとすぐ振り返りました。Y一人は気持よさそうに眠っていました。

Yが起きると私達も帯をしめ直して、顔を洗いに外に出ました。ずらりとならんだ長屋の門なみに、人が立っていて私共を不思議そうに見ていました。私は大急ぎで顔を洗うと、逃げるように家の中にはいりました。

Yが近所の人から聞いた話だと、昨晩から、三人も刑事が露路の中にはいってきているので、長屋中で驚いているというのです。