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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
閣室の窓に倚る人間と坂を上る人間は、その辺のところで水平の位置をとることになり、たがいに顔を見合って笑うこともできれば、うなずくこともできるというわけなのである。人間の眼がある種の危険な作用をしないのだったら、山寨の守りは完全に近いものだったろうが、そうでなかったので、この防備は意味のないものになってしまった。
道益が選りにえらんでこんなところに地幅をとったのは、人間の智慧の及ばぬ宿命のなせる業なのであろうが、道益が三層の楼閣を作ろうなどと思わなかったら、いやまたそこへ行子を置こうなどと思わなかったら、悪因縁に支配された男女が結びつけられることもなく、従って以後の悲劇もなかった。こうしてみると、道益の切羽詰った頭のなかで考えだしたことは、意図したところと反対に、なにもかも危険を生みだすことだけに役立ったともいえるのである。
長男の道長のほうは寺へやって得度させ、これはというほどの寺領を後援し、大僧都にしあげてやろうと最初は思っていたが、天文六年の秋、雄略寺の光顕上人が名もない土民に刺殺された一条を聞きこむと、坊主にしても安心はならぬ、おのれでおのれの身を守るには、武芸の鍛錬に越すものはないという考えになり、北条氏の家中の某という武芸者について、思うさま刀槍弓馬の技を学ばせた。