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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年1月号~3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,454 字 · 59 页
心得た連中のことだから、貧士の一人や半分を仕留めるのに手間ひまはかけない。縊り殺すか叩き伏せるか、その場の思いつきで、手軽に片附けてしまうことだろう。
翌朝、道益は起きぬけに府中へ下り、船澗のそばで上荷の宰領をしていたが、谷戸へやった手の者が、午ごろになっても帰って来ないので気にしだした。といって何事があろうとも思えない。山曲につづく入谷津の谷戸は、山懐に囲まれた広くもない段地で、荒れはてた陸田や狭畑があるばかりの奇もない場所である。猪狩りは名目だったが、思いたてば、なにをやりだすかしれない放埓な連中のことだから、面白ずくに巻狩りでもはじめ、二子山のあたりで遊び呆けているのでもあろうか。夜になったら帰って来るだろうと多寡をくくっていたが、その後、三日経っても消息がないので、上の谷戸でなにかしら異変があったのだと思うほかはなかった。
四日目の夜、とりわけ夜目のきくやつを二人ばかり物見にやると、夜明けごろ意外な報告をもって帰って来た。入谷津の山端の木繁みの間から谷底を見おろすと、そこここの段丘に蔓巻の打刀を差し、鍬鋤を担いだ山武士態の男がむらむらに群れ、なにを運ぶのか、谷戸の斜面の古道から鷹巣山の峯づたいに、何百という松明の火が点々とつづいている。