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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
一の四
とおふさが云った、「あんた独り身なんでしょ」
「諄いな、会いたければかみさんに会わしてやるぜ」
「あたしが押しかけ女房になりたがってるとでも思うの」
「除けろよ、馬が来るぜ」と参太は云った。
一の四
上方に仕事があるからいって来る、とおれが云いだしたとき、おさんはどうぞと答えた。おまえは待っているんだがいいか、と訊いたら、ええ待っています、と頷いた。上方に仕事があるということが口実であり、このまま夫婦別れになるのではないか、と直感したようであった。いつ立つんですか。向うの都合でいそぐから、この二十五日に立つ予定だ。そう、では三日しかないのね、と云いながら眼をそむけた。そのままなにも変ったようすはみせなかった。あんまり変らなすぎるので、おれのほうが却っておちつかず、心が痛んだものだ。そして、明日いよいよ立つというまえの晩、おさんはがまんが切れたように、泣いてくどいた。あんたは別れるつもりでしょう、ごまかしてもだめ、あたしにはわかってるの、あんたは別れるつもりなのよ、とおさんは云った。おれは黙るよりしかたがなかった。どうしてなの、あたしのどこがいけないの、云ってちょうだい、なにが気にいらないの、まさか、あのひるがおのことじゃないでしょうね、と云っておさんは、涙の溜まった眼でおれをみつめた。