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おさん

おさん

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页

青空文庫

二の二

ひるの弁当のあとだ。まわりにはだいぶ職人がいて、辰造の云うことを聞いて笑った。意味をよくのみこめない笑いだが、おれはかっとなって辰造を殴りつけた。怒りではなかった。云われた言葉に怒ったのではない、自分だけしか知らないおさんのからだの秘密を、辰造に勘づかれていたということの嫉妬だった。冗談だよ、気に障ったら勘弁してくれ、と辰造はすぐにあやまった。ひとの女房のことなんかに気をまわすな、とおれは云ってやったが、図星をさされた恥ずかしさは隠しきれなかった。辰造はまたあやまったが、その眼は笑っていた。

二の二

「お湯が沸いたわ」と女が云った、「お茶を淹れましょうね」

参太は黙ったままで手を放した。

「こら、この汗」衿を合わせながら起き直った女は、衿をひろげ、小さいけれどもこりっと緊まった、双の乳房のあいだを撫でた、「ごらんなさい、こんなよ」

「風邪をひくぜ」と参太が云った。

女は夜具の中からぬけ出し、しごきをしめて火鉢のほうへいった。行燈は消したままだが、すぐ近くにある廊下あかりで、茶を淹れるぐらいのことに不自由はなかった。あんた女房持ちだなんて嘘でしょ、と女が手を動かしながら云った。