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おもかげ
おもかげ
山本 周五郎
「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页
父は正之助を居間へ呼んで、しばらくよしなしごとを話していたが、やがてふと笑いながら、
「どうだ、鳥取へ帰りたくはないか」
と仰しゃった。正之助はすぐに、
「いいえ決して帰りたくはございません、江戸へまいってから正之助は、本当に生きかえったような気持ですもの」
そうお答えをした。父は意外なことを聞くというようすで、しばらく正之助の顔を見ておいでになったが、しだいにお顔色がけわしくなり、やがて膝をお正しになって、
「おまえはまだ、叔母さまが厳しく育てて下すったことの意味をよく知らないのだな。父はそうは思わなかった、おまえが心から叔母さまに感謝しているものと信じた。よく考えてごらん、母が亡くなり、父が江戸へ去ったあと、叔母さまは若い女ひとりの手でおまえをお育てなすったのだよ。おまえの気に入るように、おまえのよろこぶように、好きにまかせて育てるのは造作もないことだ。けれど、もしそうしたとしたら、おまえはどんな風に成長しただろう、世間でよく『お祖母さん子は三文安い』というが、それはあまやかして育てた子は世のなかへ出ても役にたたぬという意味だ。おまえはいま学問でも武芸でも、ひとに負けない子になっている、それはおまえが熱心に勉強し、よくはげんだからだ、おまえの努力のたまものにはちがいない、けれどそれはうしろに叔母さまがいて