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おもかげ
おもかげ
山本 周五郎
「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页
叔母さまはそう仰しゃって、正之助にそれ以上なにもお云わせにならなかった。でもおうれしかったには違いなく、お顔つきのどこやらに、それからいつもほのかな微笑がうかんでいるように思えた。
お祖父さまの法会が済んで、江戸へ戻る日が来た。いっしょに江戸へおともないする筈だったけれど、「お墓守りをする者がなくては――」と仰しゃって、叔母さまはやはり鳥取へお残りになることになった。しゅったつをする前の夜、更けるまでいろいろお話をして、正之助が自分の部屋へかえると、しばらくして叔母さまがそっとおいでになった。もう寝たものとお思いになっていたようすで、ありあけの燈火に、正之助がふりかえると、少しうろたえたような表情をなすって、「狐が啼いても、もう怖くはないでしょうね――」などと笑いながら仰しゃった。そしてしずかにお坐りになったので、正之助もありあけの燈をかきたてた。
「正之助さん、あなたはいつもおやすみになるとき『お母さまおやすみなさい』とお云いなすったでしょう」
「ええそう申しました」
「いまでもそうお云いなさいますか」
「ええそう申します」
叔母さまは「そう」というようにお頷きになった。