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おもかげ
おもかげ
山本 周五郎
「少女の友」実業之日本社、1942(昭和17)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,242 字 · 21 页
叔母さまのお返事は聞えなかった。正之助は、「叔母さまがお嫁にいらしったら――」と考えるだけで、からだがのびのびするような気がした。「お祖父さまならおやさしいから――」そうすればこんな窮屈な毎日ではなくなるにちがいない。そう思いながらふと、
「叔母さまは早くお嫁入りなさるといい」
とつぶやいた。すると、いつの間にかうしろに叔母さまが来ていらっしゃって、
「その姿勢はなにごとです、勉強なすっているのですか、遊んでいるのですか」
ときびしい声で仰しゃった。あまり不意のことで、正之助は胸の鼓動が止まるほどびっくりして、慌てて筆をとって草紙に向った。それでも叔母さまはそれ以上はなにも仰しゃらず、しずかにご自分のお部屋へ立ってゆかれた。「いまの言葉を叔母さまはお聞きなさらなかったのかしら、それともお聞きになったかしら。もしおききになったとしたらお気の毒だが――」そう考えめぐらしながら、正之助はひとりの時でも決してそんなことは口にすまいと自分に誓った。
おまえも呼びよせると仰しゃったけれど、父からは「来い――」という知らせはなかった。はじめのうちは待ちわびて、「いつお呼び下さるのですか――」