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おくみさんとそのしゅうい
お久美さんと其の周囲
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页
「ああ、それに限る。
と云うとさも満足したらしく――自分自身の心の働きを感謝する様な合点をすると、大きな溜息を一つして又床についた。
けれ共寝付かれないらしくモタモタと体を動かして居たお関は、今度はスーッと音も立てずに起きあがると、白い浴衣の姿を暗い中に気味悪く浮べて影の様に次に並んで居る布団に手をかけた。
枕の所へ口を押しつけて何か囁いては揺り、揺っては囁いて居ると、その床からムックリ立ち上った黒く大きい影と一緒に開け放した土間の方へ幻の様に裾を引いて下りて行った。
静まり返って死んだ様になって居る土間に微かなカタカタと云う音とシュッと云う音が聞えたきりあとは前にもました静寂な四辺一杯に拡がって主屋からは主人の大きないびきが重苦しく流れて来て居た。
農具とその他の樽や古箱等の積んである土間の一番の隅に一かたまりの様になってお関と重三が立って居た。
塵の厚く積った様な桶の底に燈されて居る豆ランプはピクピク、ピクピクとひよめいて一息毎に湿った土間に投げ込まれたまま幾年か立って居る廃物を淋しく照し出し、二つの影を魔物の様に崩れて恐ろしく大きく震わせては藁の出た荒壁に投げつけた。