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おくみさんとそのしゅうい

お久美さんと其の周囲

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页

青空文庫

ホッ、ホッと立つ細い油煙の臭いと土の臭味の満ちた中にお関は自分の髪結いに用う大形の鏡を持って立って居るのであった。

お関は鏡を高く持ち上げて互の顔の高さまでにした。

「あ、お前これをお持ち。

顔をもっとこっちへお寄せ。

お関は鏡を重三に持たせて自分は豆ランプをかざした。

灰色になった髪の汚なく寝乱れて、横皺の深く刻み込まれた額の下に三角形の目のある鼻の低い猿の様な口元の顔は、世の中の最も醜い者として選ばれた様な若者の顔と並んで長方形の枠の中に現われた。

弱い光線は二つの顔を照すには充分でなかった。

明る味の届かない所には肉の腐れ落ちて居る様な不気味さを以て暗く、そうでない所は身震いの付く程の黄黒さを以て描き出された。

「私のする通りにおし。

死魚の様な目は大きく見開かれた。

四つの瞳は冷たい水銀の上に凝りかたまった。

上下にと引き分けられた厚い唇の間から非常に大きく乱杭な歯と細ー長い列とが現われて消えた。

腐敗に赴いた死顔の様な二つの顔の筋肉は機械的に延びたり縮んだり、かたまったり、ゆるんだりする度に奇怪な絵の様な物凄く不完全な種々の表情が鎮まり返って居る鏡面に写っては消え、消えては写った。