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おくみさんとそのしゅうい
お久美さんと其の周囲
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,369 字 · 149 页
主人と清川は運ばれたばかりのビール瓶を握って階子口の両側に立って、黒い頭の現われるのを待って息をのんで居た。
お関は半ば失神した様になって戸棚の中にボーッとして居た。
上と下とで互に相手の現われるのを待って居た。
上から降りて来る者は誰も居なかった。
下から昇って行く者は一人もなかった。
両方の張りつめた心は少しずつゆるんで来た。若者共の叫びは折々思い出した様に繰り返された。
けれ共彼等の目前には黄色の灯の下に取り乱された貧しい家具と引きさかれた絵が淋しく淋しく霊を地の底に引き込みそうに横わって居るばかりだった。
十二三の喉が拡がって迸り出る声が無限に続いた闇の中に消え入って仕舞った後の沈黙は、激情の赴くがままに走った後の眠りを欲するまでに疲労した心の奥までしみ透って、互に目を見合わせて寄り合わずには居られない程の陰鬱と凄惨な気分が漲って居た。
若者等の口からは太い吐息がもれた。
そして涙のにじむ様な気持になって影の様に去って仕舞った。
若者達の去ったのを知って上の男は始めて自分のそこにそうやって立って居る事を気づいた。
気が抜けて崩れる様に座についた二人はだまったまま酒をつぎ合って喉の渇きの癒えるまで呷りつづけた。