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おかあさん

お母さん

小川 未明

「教育行童話研究」1938(昭和13)年5月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 1,614 字 · 4 页

青空文庫

「ああ、あんな約束をしなければよかった。これから、勇ちゃんの家へいって、断ってこようかしらん。」と、正ちゃんは、気がもめてなりませんでした。

「僕、釣りにいく約束をしたのだよ。」

「だれとかい。」と、兄の敏夫さんは、こちらへ向き直って聞きました。

「茂ちゃんと、勇ちゃんと三人で、八時にいくって。」と、正ちゃんが、いいました。

「いま何時だろうな。」と、敏夫さんが、いいました。

「もう六時過ぎだろう。」

「だけど、起こしては、お母さんに悪いじゃないか。」

「僕、勇ちゃんのところへいって、断ってくるよ。」

「もう、すこし待ってみな。」

「だって、勇ちゃんは、七時半にくるといったもの。」

正ちゃんは、独り、起きて、洋服に着かえると、二階から下りてきました。

すると、お母さんの姿が見えません。おへやは、もうちゃんときれいにかたづいていました。

「おや、お母さんは?」

正ちゃんは、お勝手もとへいってみました。ガスに火がついて、お汁のなべが、かかっていました。そこにもお母さんは、いらっしゃいません。

「お母さんは、どこへいったろうな。」

このとき、お母さんは、外から、お豆腐をいれた入れ物を持って、帰っていらっしゃいました。