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かげろうのにっき
かげろうの日記
堀 辰雄
「改造」1937(昭和12)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,890 字 · 60 页
もあった。そんな時など、それほど空けたようになっているおりおりの自分の姿が、私にも何かしら異様に思われたりするのだった。
そのうちほどなく身が穢れになったので、私は一度里へとも思ったが、すぐ思い返して、その間だけ寺から少し離れた或みすぼらしい山家に下りている事にした。それを聞きつけて、京から伯母などがやって来てくれた。そんな馴れない山家住いだものだから、何だかちっとも気もちが落着かずに五六日を過しているうちに、もう月の中程になってしまった。山陰の暗いところを蛍が小さく光りながら飛ぶのがしきりなしに見えた。里でまだしも物思いの少なかった頃には、ついぞ二声と続けて聞いたことのないのを怨めしがった時鳥も、いまはすっかり私にも打ち解けて、殆ど絶え間もなしに啼いていた。水鶏だって、わが家の戸を叩いたかと思うくらい近くを啼いてゆく。――それにしても、何んとまあ物思い自身の巣くっているような栖なのだろうかしら。それは自分から思い立ってこうして居るのだから、誰も訪れてくれる者はなくとも、ちっとも辛いなどとは思いもしないし、むしろ気安くていいとさえ思ってはいるものの、只、歎かわしいと思うのは、こう云う物思いにもってこいのような栖をさえ自分から好んでせずにはおられなくなった自分の宿世の切なさと、――それともう一つは、自分の