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かげろうのにっき
かげろうの日記
堀 辰雄
「改造」1937(昭和12)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,890 字 · 60 页
と、途中の山路で夕立に逢った有様を恐ろしそうに話した。
こんどはあの方の御文を托せられて来た。「若したまたま山を出られる日があったら前もって知らせてくれ。迎えに往こう。何だかもうそちらで私の事なんぞはすっかりお見棄てらしいから、こちらから近寄るのはすこし怖い」などとある。私はそれを貧るように読んでしまうと、すぐ何でもないようにそれをそのまま打棄てて置いた。
それから二三日後、道綱が「どうか先日の御返事を下さいませんか。又お叱りを受けるかも知れませんから、早く持参したいと思います」としきりにせびるのだった。私はもうあの方にそんな返事など上げる気もちにはなれそうもなかったので、何のかのと言い紛らしていたが、しまいには道綱が可哀そうになって、何を書いたのやら自分でも思い出せないような事ばかりを書いて持たせてやった。
すると、又、この間と丁度同じような時刻になると、突然夕立が来た。そうしてこの前よりももっとはげしいかと思えるような雷が鳴り出した。しかし今度は私は、簾も下ろさずに、横なぐりの雨に打たれながら木々が苦しみもだえるような身ぶりをしているのを、ときどき顔をもたげては、こわごわじっと見入っていた。