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このなつ

この夏

宮本 百合子

「週刊朝日」1925(大正14)年10月1日秋季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,213 字 · 13 页

青空文庫

これから書こうとするのは、筋も何もない漫筆だ。今日など、東京へ帰って見ると、なかなか暑い。いろいろ気むずかしいことなど書きたくない。それゆえ、これを読んで下さるかもしれぬ数多い方々の中に、私の親しい友達の一人二人を数えこみ、手紙のように、喋くるように楽なものを書きたい。若しそれが一寸でも面白ければ幸です。

先々月、六月の下旬、祖母の埋骨式に、田舎へいっていた。長年いきなれた田舎だが、そこの主人であった祖母が白絹に包まれた御骨壺となり、土地の人がそれに向って涙をこぼすような工合になると、却って淋しい。人々が集り、暑い夏を混雑するのも悲しい。私は、気抜けしたように黙りこんで、広々とした耕地を瞰渡す客間の廊下にいた。茶の間の方から、青竹を何本切らなければならぬ、榊を何本と、神官が指図をしている声がした。皆葬式の仕度だ。東京で一度葬式があった。この時、私は種々深い感じを受けた。二度目だけれども、やはりああいう声を聴くと侘しい水を打ったような心持を感じる。――

午後、ひとりぼっちで祭壇の前にいると、手紙が来た。東京のうちから来た。私は嬉しく、裏表をかえして見てから、封を切った。