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さくらんぼ

さくらんぼ

岡本 かの子

「週刊朝日」1932(昭和7)年6月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,173 字 · 5 页

青空文庫

枇杷は答える「美しいものは患が多いのですよ」画架の上に小さい画板が載っている。画はまだ、ほんの少ししか出来ていない。

外は夕暮近いのに明るい昼がいつまでも続くもののように柳の虫売りが切のよい声で虫の効能を唄って行く。

ここは都会からそう遠くない郊外の町村だ。

町外を流れる広い砂川が町の経済を決定する。川は町にいろいろのものを運んで来てくれる。さくらんぼうもその一つだ。川が直接この美しい珠玉を運んで来るわけではないのだが川は山を崩して岩にし岩を崩して石にし石をくだいて砂利にし砂利をふるって土にする。その、さらりとして空気と光線を透し易い土の質は培養素のように果樹の種子を受付ける。受付けた種子をたちまち実にする。「田の中へ入れる養殖鯉と、川岸土の上の果樹には成長に途中の過程というものが無い。種子が直ぐ実である」とこの町の青年産業聯盟の会長をしている町長の息子はこういう言葉を使ってこの二つのものの培殖を奨励する。それでこの町村は初夏はさくらんぼうの村になった。(秋は梨と鯉の村になる)

彼女は町長の息子のこういう言葉が嫌いだ。息子が川のことを「自働工夫」