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しんぱくのはなし

しんぱくの話

小川 未明

「民政」1933(昭和8)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,076 字 · 7 页

青空文庫

幸いに根のかみついていた岩角が砕けなかったから、よかったものの、もし壊れたら、おそらくそれが最後だったでありましょう。

しかし、いまは、そのときの傷痕も古びてしまって、幹には、雅致が加わり、細かにしげった緑色の葉は、ますます金色を帯び、朝夕、霧にぬれて、疾風に身を揺すりながら、騎士のように朗らかに見られたのであります。

冬でも、この岩穴の中に越年する、いわつばめがすんでいました。ひらひらと、青い空をかすめて、右に、左に、飛んでいたが、やがて、風に舞って落ちてきた木の葉のように、しんぱくの枝にきて止まりました。

「雪が近づきましたよ。西の空が火のように赤いのです。こんどあらしがあるときっと雪を持ってきますからね。」

そういって、いわつばめは、だんだん黄昏れていく、奥深い空を見上げていました。

うっかりしようものなら、冷い風が、小さな体をさらって、もう暗くなった谷間へたたき落とそうとしたのであります。

しんぱくは、そのたびに、頭をはげしく振りました。

「いや、そのほうがいいでしょう。あなたたちは、岩穴の中でゆっくり眠りなさるがいい。かれこれするうちに、じきに四、五月ごろとなります。