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どぶろくげんそう

どぶろく幻想

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页

青空文庫

それが却って遠慮ない態度に見えた。

「あんた、いいところへ来ました。もう、どぶろくも無くなりかけた。今晩、飲んでしまいましょうや。」

ばかなことを言ってる。無くなったら、新たに仕入れすればいいじゃないか。周さんももう酔ってるようだった。それでいて、濁酒のお燗なんか自分でしていた。

「つねちゃんは……。」

つねちゃんという若い女中がいたはずだ。

「暇をだしましたよ。今は、わたし一人きり。」

俺はあたりを見廻した。千代乃さんはどうしたんだろう。

「千代乃さんは、また出かけたの。」

「千代乃……もうわたし、諦めています。死んだ者は仕方ない。」

「死んだ者……。とぼけちゃいかんね。さっき僕は、そこで逢ったんだから。」

周さんは腰を浮かした。じっと俺の顔を眺めた。

「あんた、なにも知らないんですか。」

俺はへんな気持ちで、周さんの顔を窺った。

周さんは突然、すっかり立ち上って、俺の腕を捉えた。

「千代乃に逢った……ほんとに逢いましたか。」

「逢ったとも。あっちの、焼跡のところで……そして、一緒に、ここへ来たはずだが……。」

「たしかに千代乃ですか。」

間違いはなかった。言葉まで交わしたのだ。