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なよたけ
なよたけ
加藤 道夫
「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页
なよたけ (嬉しそうに肯く)
文麻呂 (遠く右手奥を指し示し)さあ、お行き! あのわらべ達の声が道しるべだ! あの声の聞える方へどんどん行けばいいんだ! 夕陽の沈む頃、僕もお前の所へ飛んで行くよ! (なよたけの手を放す……)
行者の呼ばい声、突然、ふと聞えなくなる。文麻呂、右手奥へ走ろうとするなよたけを呼びとめて……
文麻呂 (怪訝そうに)なよたけ!
なよたけ (立止り)何?
文麻呂 僕には聞えなくなってしまった。何にも聞えなくなってしまった。……お前にはまだ聞えるの?
なよたけ 何が?
文麻呂 あのわらべ達の呼んでいる声……
なよたけ (耳を澄まし)聞えるわ! 聞えるわ! とてもよく聞えるわ!
解放された小鳥のように、なよたけ、右手奥へ消える。……
文麻呂、何やら掴み難い不安にとらわれたような面持で、彼女の去った方向を見送っている。
……突然、虹が消えた。
不意に、左手奥の方から、何やら不吉な幻聴のごとく、わらべ達の声が聞えた。
だまされた だまされた
あんなあなにだまされた
なよ竹は大納言の手先だぞ。
文麻呂は、はっとした面持で、怪訝そうに左手の声の方向にふりかえる。
――幕――