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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

あたりは次第に暗くなって行く。……

翁の姿は、残像のように、夕闇の中に取り残されている。……

山鴿が遠近で、急に申し合わせたように鳴き始めた。

竹取翁 おう、山鴿が鳴き始めた。……儂にはもうあれの唄う可愛らしい唄声も聞えなくなってしまった。……儂はまるでつい昨日のことのように覚えている。あの子は山鴿が鳴き始める頃になるときまって唄をうたい出したものじゃ。山のわくらべどもと一緒になって、可愛い声を出して唄をうたい出したものじゃ。……儂にはもうそれさえ聞えなくなってしもうた。あれはもう二度と儂の前に姿をあらわしては来ぬような気がする。あれにはもうこの儂が必要ではなくなったのじゃ。なよたけのかぐやは竹取翁を見離して行きまする。この儂を見棄てて、貴方のものになるのじゃ。あれにはもうこの竹の里は要らぬものになってしもうた。……御覧なされ。なよたけを失うたこの伝えの里はだんだんと荒れすさんで行きまする。……おう、風じゃ。滅びの風が吹きつのりはじめた、……この伝えの里は儂と共に滅びて行きまするのじゃ。……お願い致しまするぞ。儂に代ってなよたけのいいつたえを信じて下され。