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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

ひとこと、信ずると……

翁の言葉がふと途切れる。すると、翁の姿は濃い蒼色の光に照らされ始めた。白銀の斧がその手に異様に光っている。

なよたけの声 (突然、左手より風の音に交って聞えた)文麻呂! 文麻呂!……信じては駄目よ! 誰の言葉も信じては駄目よ!

文麻呂 (はっと我に返ったように)なよたけ! どこにいるんだ! 教えておくれ!……なよたけ!……お前はどこにいるんだ!

竹取翁 なよたけは信ずるものを喪うた。なよたけの夢は現し世から消えて行くのじゃ。……竹取ノ翁もなよたけのかぐやも無明の中に消えて行くのじゃ。

文麻呂 お爺さん! 貴方には聞えないのですか? あのなよたけの声が貴方には聞えないのですか?

風の音烈しく……

なよたけの声 文麻呂!……竹の林を出て! 竹の林を出て! 果しもない夜空の下にあたしは立っている! お星様が残る隈なく見える所にあたしは立っている!……文麻呂! 早く竹の林を出て! 竹の林を出て!

文麻呂 お爺さん!……なよたけが僕を呼んでいる! 僕にはあの女の声がはっきりと聞えるのです! なよたけは夢ではありません! なよたけはこの竹林の外で僕を待っている。