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のらいぬ

のら犬

新美 南吉

「赤い鳥」1932(昭和7)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,431 字 · 7 页

青空文庫

一

常念御坊は、碁がなによりもすきでした。きょうも、となり村の檀家へ法事でよばれてきて、お昼すぎから碁をうちつづけ、日がかげってきたので、びっくりしてこしをあげました。

「まあ、いいじゃありませんか。これからでは、とちゅうで夜になってしまいます。今夜は、とまっていらっしゃいましよ。」

と、ひきとめられました。

「でも、小僧がひとりで、さびしがりますから。さいわいに風もございませんので。」

と、おまんじゅうのつつみをもらって、かえっていきました。

常念御坊は歩きながらも、碁のことばかり、考えつづけていました。さっきのいちばんしまいの、あすこのあの手はまずかった。むこうがああきた、そこであすこをパチンとおさえた、それからこうきたから、こうにげたが、あれはやっぱり、こっちのところへ、こうわたるべきだったなどと、むちゅうになって、歩いてきました。そのうちに、その村のはずれに近い、烏帽子をつくる家の前まできますと、もう冬の日も、とっぷりくれかけてきました。

しばらくしてなんの気もなく、ふと、うしろをふりかえってみますと、じきうしろに、犬が一ぴきついてきています。