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ひとごろし
ひとごろし
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页
信じている」
「わたくしが悪いんです」かねは咽び泣きながら云った、「みんなわたくしが悪かったからです、お兄さま、堪忍して下さい」
「さあ早く」と六兵衛が云った、「旅支度を揃えてくれ、泣くのはあとのことだ」
「偏耳録」によると、双子六兵衛は昂軒のあとを追って、三日めに追いついたという。ところは松任、町の手前の畷道にかかったとき、六兵衛は昂軒の姿をみつけた。背丈が高く、肩の張った骨太の、逞しい躯つきは、うしろからひとめ見ただけで、それとわかった。六兵衛はわれ知らず逃げ腰になり、口をあいて喘いだ。口をあかなければ喉が詰まって、呼吸ができなくなりそうだったからである。心臓は太鼓の乱打のように高鳴り、膝から下の力が抜けて、立っているのが精いっぱい、という感じだった。
「待て、おちつくんだ」と六兵衛は自分に囁きかけた、「まずおちつくのが肝心だ、向うはまだ気づかない、いまのところはそれだけが、こっちの勝ちみだからな」
彼は全身のふるえを抑えようとし、幾たびも唾をのみこもうとした。ふるえはおさまらないし、口はからからで、一滴の唾も出てこなかった。昂軒はゆっくりと遠ざかってゆく、大きな編笠をかぶっているが、その笠が少しも揺れないし、歩調は静かで、その一歩々々が尺で計ったように等間隔を保ってい、乾ききっている道だのに、足もとから埃