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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

すると、今度は明日子も一緒になってしきりにすすめた。ぼくはもはや礼儀上断り切れない破目になって、というよりも、そういう破目になったという顔をして、それに応じた。すると轡川は今から直ぐ移ることにしよう、と言い出し、ぼくの宿に行くと、甲斐々々しくぼくの荷物を纒めて、彼の宿まで運んでくれた。彼が大きな図体に汗をビッショリかきながらまるで番頭の様に立働いている容子をみると、ぼくは、そんなにまでぼくが彼の宿に移ることをよろこんで、親切にしてくれるのに、ぼくを試しているなどと疑ったことが何か済まないことをしたように思った。それにしても、彼がそんなにぼくに親切にしてくれるのは何故であるかぼくには分らなかったが、ぼくは唯、彼がぼくの機嫌をとる態度をみて、嫉妬される者の優越感を味い、少し己惚れ気味に良い気持になっていた。

宿に移り、彼らの隣の部屋に落ちつくと、明日子はぼくの持っていたレコードのアルバムを見て、聴かせてくれといい、フランクのピアノ五重奏とヴェトーヴェンの第八シンフォニイを掛けながら、三人で音楽の話などをした。轡川はぼくの多少ペダンチック臭のある話に喰いついて行こうとするらしく見えたが、教養が無いので喋ることが頓珍漢で、明日子は時々轡川を嘲笑しているかの様な眼付をぼくに見せた。