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ひとりすもう
ひとりすまう
織田 作之助
「海風 第三号」1938(昭和13)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页
可きだとも思った。それにしても、夜更けの海辺で明日子を見て自殺者と思ったことが結局石油をのむ破目になったのかと思うと、情無かった。後で考えて後悔するだろうと思うと、躊躇された。しかし、「怖くないでしょう」といわれてみると、もう何も考えなかったのだ。怖くないことを示すという自尊心が、ぼくをして生臭い石油をまるで毒薬をのむ様な悲壮な表情で飲ませてしまったのだ。
その夜ぼくは寝床にはいってから、隣の部屋がぼくを苦しめないことを喜んだが、その代り、激しい下痢と頭痛に苦しめられた。勿論石油をのんだ為であるが、轡川がぼくがそれをのんだ時に見せたさも嬉しそうな表情を思うと、一体之から先、石油をのむ様な場面まで演じてしまったぼくらの関係はどうなるのだろうと、その夜は結局一睡もせず、間抜けた顔をして、下腹を押えながら、夜を明かした。
その翌朝、ぼくはこっそり医者に行った。轡川に知られるのが如何にも間抜けたことと思ったのだ。医者は下痢止めの薬をくれたが、ぼくが石油をのんだというと、彼は無茶なことをすると、驚いた顔をしたので、ぼくは、轡川の顔を情無く思い浮べながら、婦人雑誌の例をあげて弁護めいたことを言った。