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ひとりすもう

ひとりすまう

織田 作之助

「海風 第三号」1938(昭和13)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 40 页

青空文庫

来たのだと答え、そして轡川に、あなたも一緒に帰えるのかときくと、彼は殆んど泣き出しそうな顔をして、いやぼくは後から帰えるのだ、と言った。

船の時間が迫っているというので、ぼくらは直ぐ宿を出て、バスに乗り東白浜にある綱不知の桟橋まで明日子を送って行った。バスが珈琲店「銀砂」の前を通ると、丁度この間の美少年が放心した様な顔に一筋何か悲しい影を泛べて、はいって行く所だった。未だ朝の内から「銀砂」に通って行くことが何か微笑ましく、思わず微笑すると、明日子も亦ぼくの顔を見て微笑した。二人だけにわかる徴笑であった。ぼくは急にはしゃぎ出した。ぼくは明日子と二人だけの話をしたくてならなかった。彼女に接唇をし、そしてそれが結局不本意にも彼女を浮気な女だと思いこんでしまうことになったまま空しく別れてしまうことは、いまの二人が交した微笑の趣きには適わしくないと思った。が結局轡川の前でそのことに触れる訳に行かないので、もはやぼくは気づまりな沈黙にたえかねて思わずはしゃぎ出すより外にしかたが無かったのだ。それとも一座の沈潜した空気を緩和するための道化振りだったのか。とにかくぼくは口をひらけば、洒落と冗談の連続だった。